海外メディアVRScoutは、2017年4月4日において、ビョーク「Notget VR」のフルバージョン動画を紹介した。
ビョーク「Notget VR」とは
同メディアは、2017年4月3日にYouTubeにアップされたビョークが出演するVRミュージック・コンテンツ「Notget VR」の動画バージョンを紹介した。
同VRコンテンツは、以前にもティザー動画が公開されており、かなり長期間にわたって制作されていたことがうかがえる。
本メディアでもその開発の舞台裏を紹介したのだが、このほど完成したVRコンテンツは、昨年7月に日本科学未来館で開催された「Bjork Digital」展で披露されたものとはかなり異なった仕上がりとなっている。
以下に、およそ6分20秒の同動画に引用する。
真価は「フレームの向こう側」に
実のところ、ビョークがVRコンテンツを手がけるのは、「Notget VR」が初めてではない。2015年6月という「VR元年」よりさらに早い時期に、360°カメラを活用した「stomemiker(360 degree virtual reality)」を発表しているのだ。
この「stomemiker」と「Notget VR」を比較すると、後者が「動画」という様式からより「VRコンテンツ」に接近したことがわかる。
「stomemiker」では、現実の世界に360°カメラを配置し、カメラの周囲を旋回するビョークを撮影している。同動画で重要なのは、360°カメラのフレームのなかに映し出されるビョークなのであって、その周囲の物理世界は動画の「背景」であることにとどまっている。
対して「Notget VR」の動画で見ることができるビョークが歌い舞う世界は、ビョークを際立たせるための「背景」ではない。同VRコンテンツにおいては、バーチャルなビョークとともにバーチャルに創造された空間も、アート作品の「顔」あるいは「正面」として鑑賞されるべきものではなかろうか。
つまり、「Notget VR」の動画から見ているものは、ビョークが創造したVRアート空間を切り取ったほんの一部分に過ぎず、同作品を真に「体験」するためには、VRヘッドセットを装着してアート空間のただなかに没入しなければならないだろう。
「私の代わり身」から「私の化身」となったアバター
動画を見た限りでは、同VRコンテンツは、バーチャルなアート空間とその空間内で歌い舞うビョークのアバターから構成されている。
同VRコンテンツを特異なものとしているのは、アバターの造形であろう。通常のアバターは、VR空間内でユーザーを他人に認識させるために、ユーザーの特徴を備えた3Dオブジェクトであることが多い。
VRアバターの造形において、厄介な問題が「不気味の谷」の存在である。「不気味の谷」とは、3Dオブジェクトで造形されたキャラクターが、ある一定の限度を超えてモデルとなったユーザーに似すぎると、気味悪く感じられる現象である。
「不気味の谷」問題は、アバターが不可欠であるVRソーシャルアプリにおいて重要となり、多くのVRソーシャルアプリではあまりリアルにならないようなアバターが採用されている。
ところで、「Notget VR」におけるビョークのアバターは、「ビョークのアバター」であることは認識できるものも、もはや「ビョークに似ていること」が重要ではなくなっている。むしろ、リアルなビョークをバーチャルに変身させることを目的としている。
すなわち、同VRコンテンツにおけるアバターは、ある人物を特定するという実用的な機能を超えて、ある人物が表現したいことを具現化する審美的な機能をも実現しているのだ。
この「表現手段としてのVRアバター」には大きな可能性があるように思われる。というのも、表現手段としてのVRアバターは、VRミュージック・コンテンツはもちろんのこと、例えば「踊ってみた」動画のVR版のようなVRパフォーマンス・コンテンツといった、これから成長することが予想されるVRエンターテイメント・コンテンツの多くの分野に応用できる手法だからだ。
なお、肝心のVRコンテンツとしての「Notget VR」のリリース情報に関しては、現時点では不明である。昨年の「Bjork Digital」展で披露されたプロトタイプ作品はVIVEコンテンツだったことから推測すると、少なくともVIVEには対応したものとなるだろう。とはいうものも、今できることは、続報を待つことのみである。
ビョーク「Notget VR」のフルバージョン動画を紹介したVRScoutの記事
http://vrscout.com/news/bjork-notget-music-video-vr-experience/
Copyright © 2017 VR Inside All Rights Reserved.